日本語には、実際は言葉の直接の意味とは反対の「湾曲表現」がたくさんあります。
「人がいい」(「人が好い」「ひとがいい」)という表現もそのひとつです。
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「人がいい」とは?
「人がいい」の意味は、
他人の言うことを素直に信じ過ぎたり、断れずに言いなりになってしまう・安請け合いする人(またはそのような性格)
で、実際に辞書にもこのように記載されています。
人が好い(ひとがいい)
デジタル大辞泉(小学館)
人柄がよい。気立てがよくて、他人の言いなりになりがちである。「―・いのでだまされやすい」
「人がいい」も良い意味に使われない訳でもないのですが、良い意味では辞書の「人柄がよい」「気立てがよい」という表現や、「いい人」という表現が一般的です。
中国語での表現
中国語で「いい人」「人柄がよい」は?
中国語でも湾曲表現はあるのですが、先に良い意味から見てみましょう。
中国語で「いい人」「人柄がよい」は
(你)人很好
[(nǐ) rén hěn hǎo]
となります。
"你"(「あなた」)で省略可能で、"很"は一般的な強調に使われる中国語ですが、
ここでの"好"は、日本語と同じ「よい」を意味します。
中国語と日本語の語順は同じではないことは頭でわかっているものの、この語順をみるとつい「人が好い」の方を連想してしまいそうです。
実際には"人很好"には良い意味しかありません。
気軽に伝えられる一般的な言葉です。
語順を変える場合、
你是个好人
[nǐ shìgè hǎo rén]
という表現もできますが、重い感じになってしまいます。
第三者を指す場合は、重い感じは少しなくなりますので、
他是个太好人
[tā shì gè tài hǎo rén]
他是个大好人
[tā shì gè dà hǎo rén]
という表現で、「とても」という意味で"太"や"大"をつけることができます。
注: "大好"も「とても良い」の意味で、日本語の「大好き」と混同するとショックを受けるかもしれません。
中国語で「人がいい」は?
先ほどの"他是个太好人"や"他是个大好人"は若干重い意味を含んではいるのですが、会話の中では
"太"や"大"を強調して話す
ことで「人がいい」の意味になります。
文章で違いを出すためには
他是个"太"好人
他是个"大"好人
と書くと、同じような感じになります。
中国語にも湾曲表現があり、「人がいい」にぴったりの言葉があります。
老好人
[lǎo hǎo rén]
という言葉です。
定義をみると、
老好人 [lǎo hǎo rén]
百度汉语
脾气随和,待人厚道,缺乏原则性的人。
と「気性が穏やかで、人に親切な人だが、原則性に欠ける人」との説明があります。
ここでの"缺乏原则性"は、「良い悪いを区別する原則を重んじない(区別すること欠ける)」という意味になりますので、悪い意味とは限りません。
ただ、最後の一文の意味を含んで、なおかつ一般的に使われる言葉ではないために、あえて使うことで「人がいい」と同じような湾曲表現となります。
決して「いい老人」の意味ではありません。
用法は
他是个老好人
[tā shì gè lǎo hǎo rén]
彼は人がいい
のようになります。
英語での表現
英語で「いい人」は?
はじめに、英語で「いい人」で真っ先に思いつく一般的な言葉は
good guy
nice guy
ではないかと思います。
英語では湾曲表現は極めて少なく、よほど特別な場面での特別な言い方をしない限り、良い意味しか持ちません。通常は、湾曲表現と捉えられることも無いと考えてよいでしょう。
英語で「人がいい」を表すには?
湾曲表現はないのですが、「人がいい」の本来の意味をずばりといってしまう表現はあります。
例えば、
too trusting
は、"He is too trusting." (彼は信用しすぎる)という使い方になります。
ですので、「人がいい」という表現よりかは、「お人よし」「話をうのみにし過ぎる」という表現に近くなります。
「人がいい」には、「話をうのみにし過ぎる」(騙されやすい)以外に、「他人の言いなりになる・なんでも安請け合いする」という意味もあります。
この両方の意味を含む英語は、"gullible"という形容詞があります。
gullible adjective
Oxford Advanced Learner's Dictionary
too willing to believe or accept what other people tell you and therefore easily tricked
例えば、
He is very gullible.
という用法になります。
"gull"は鳥の「カモメ」で、"-ible"(~できる)が合わさっているものですが、この語源である19世紀当初の"gull"という言葉には"fool"(ばか)や"deceive"(騙す)という意味が含まれているので、注意が必要です。
"gullible"は、単に"gull"とも表現したり、「騙されやすい」という意味で用いられたりする場合があります。
このような言葉を使う必要が無い方がよいのですが…
今回もお読みくださり、ありがとうございました。
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