正確な文字数は不明!一説には12万字とも!
実は残念ながら、「世界中の漢字の総数は?」という疑問への明確な答えはありません。
現代の常用漢字以外に、古代に使われた漢字(古字)を含めると相当な数となります。
現代では使用頻度が極端に低く、馴染みのない漢字を、中国語で"生僻字" [shēng pì zì]と呼びます。(または"冷僻字" [lěng pì zì])
古字の中には、実際に普及していた漢字だけでなく、地方独自の漢字もあります。日本で作られた漢字「国字」は現在も多く使われています。
また、権力者によって作られたものの、自身の権力の象徴として用いられただけで、普及することはなかった字もありますので、確証を得ることは難しいといえます。
また、現代に残っている漢字でも、「異体字(いたいじ)」と呼ばれている、別の書き方の漢字もあり、それらを1文字と数えるかどうかによっても字数は変わります。
日本の例でいえば、「学」の旧字体は「學」ですが現代では使われていなかったり、名字に使われる「斉」という漢字は現代でも「斎」「齋」「齊」として使用されています。
ここでは歴代の漢字辞典とあわせて、漢字の数についてみていきたいと思います。
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最古の漢字 - 甲骨文字
最古の漢字と言われるのは「甲骨文字(こうこつもじ)」です。3000年以上前の古代中国で占いをカメの甲羅や牛の肩甲骨に刻んでいたもので、殷(商)の時代の遺跡から出土しています。
この時点で全部で4500文字ほどの存在が確認されているのですが、中国の学者の間で識別可能とされている字数は、1000文字ほどといわれています。
中国語: 甲骨文 [jiǎ gǔ wén]
その後、漢字として確立されていく中で、増加していきました。
歴代の中国の漢字辞典の収録数
中国最古の漢字辞典《说文解字》には、収録されている漢字の総数は9353字で、異体字は1163といわれています。
晋の時代の《字林》という辞書には、12824字が収録されていると伝えられていますが、現存はしていません。
南北朝時代の《玉撰》には、収録総数は16917字となっています。
宋朝時代になると、官製の《集韵》には総数53525字が収録されています。(約21000字の異体字を含む)
清代の《康熙字典》には、総数で47035字の漢字が収録されています。
近代では1915年に、中華書局出版の《中華大字典》に、収録総数48000字超となりました。
このように、漢字の数は増えていく傾向にあるものの、減っている場合もあり、漢字として除外された字もあることがうかがえます。
収録字数の多い各国の漢字辞典
それでは、現代の漢字辞典には、どれほどの数の漢字が収録されているのでしょうか?
どの国の収録数が多い漢字辞典でも、自国の漢字以外も掲載しています。
日本
まずは日本の漢字辞典の最高峰といえば、
出版: 大修館書店
辞典名: 大漢和辭典 (大漢和辞典・だいかんわじてん)
収録字数: 親字 51110項目
出版年: 2000年
ISBN: 9784469031584
韓国
現代では、韓国はハングルが主要な文字ですが、漢字文化の国でもあり、漢字を使う場合もあります。
こちらは漢字と語彙を合わせて世界最大と謳われています。
出版: 檀国大学校東洋学研究所
辞典名: 漢韓大辭典
収録字数: 約58000字
出版年: 2008年
中国
中国では「漢語大字典」が有名です。
出版: 湖北辭書出版社・四川辭書出版社
辞典名: 汉语大字典
収録字数: 54678字
出版年: 2006年
ISBN: 7540310103
しかしながら、漢字の収録数の多さでは「中華字海」が長年、最多とされてきました。(異体字を含む)
出版: 中国友谊出版社
辞典名: 中华字海
収録字数: 85568字
出版年: 1994年
ISBN: 7505706306
台湾
台湾には、1960年代から刊行された「中文大辞典」があります。
出版: 中文大辞典编纂委员会
辞典名: 中文大辭典
収録字数: 49905字
出版年: 1960年代
(1962年11月 初版 38巻・1968年8月 索引2巻を追加・1973年 改訂)
その後、2017年には世界最多の漢字収録数となった「異体字字典」が出版され、収録字数は10万字を超えています。
この辞典には、現代は使用されていない漢字も数多く収録されています。
出版: 臺灣教育部
辞典名: 異體字字典
収録字数: 106330字
出版年: 2017年
ISBN: 9787806162521
異体字字典 オンライン版
《異體字字典》のオンライン版も利用できます。「檢索功能」から部首(部首查詢)や画数(筆畫查詢)などから検索できます。
この辞典に全部の古字が収録されているかというと、そうではありませんので、古字を含めると12万字という説にも説得力がありますね。
では、日常生活に必要な漢字の数はどのくらいでしょうか?
日常生活に必要な漢字の数
日本・中国・台湾の常用漢字を比較
日本の漢字は、常用漢字表で2136字とされています。
一方、中国には、中国の常用漢字表にあたる《简化字总表》 [jiǎn huà zì zǒng biǎo](日本の漢字で「簡化字総表」・中国の略称《总表》)があります。
こちらは、中国の漢字は簡体字を採用していて、多くは10画以内になるように工夫されているもので、現在では2235字が含まれています。
台湾では、中華民国教育部によって《常用國字標準字體表》が制定されていて、4808字が常用漢字とされています。
一般的に使用する漢字の数を比較
日本
日本では常用漢字表の2136字を含め、約3000字を使うといわれています。
漢字以外にひらがなやカタカナも使いますから、特に漢字圏以外の国の人にとっては日本語の学習はたいへんですが、どのくらいの漢字を知っていれば生活できるのでしょうか?
国立国語研究所の松下 達彦 教授による興味深い研究があります。
字数による「テキストカバー率」を調査・分析した研究で、主に下記の結果が公開されています。
ひらがな・カタカナ・アルファベットに加えて
- 基本漢字 300字: 80%に到達
- 漢字上位 1000字: 95%に到達
この「漢字上位 1000字」は「ほぼ教育漢字に相当する」とのことで、「テキストカバー率 95%は、英語でいえば6400語に相当する」そうです。
日本漢字能力検定(漢検)の漢字の数
「日本漢字能力検定」は、公益財団法人 日本漢字能力検定協会が実施する検定で、「漢字検定」や「漢検」として知られています。
漢字の読み書きを中心とした検定で、級別に字数で出題されます。
- 1級: 大学・一般程度(約6000字)
- 準1級: 大学・一般程度(約3000字)
- 2級: 高校卒業・大学・一般程度(2136字)
※常用漢字がすべて読み書き活用できるレベル - 準2級: 高校在学程度(1951字)
- 3級: 中学校卒業程度(1623字)
- 4級: 中学校在学程度(1339字)
- 5級: 小学校6年生修了程度(1026字)
- 6級: 小学校5年生修了程度(835字)
- 7級: 小学校4年生修了程度(642字)
- 8級: 小学校3年生修了程度(440字)
- 9級: 小学校2年生修了程度(240字)
- 10級: 小学校1年生修了程度(80字)
JIS漢字コードの漢字の数
JIS漢字コードは、日本産業規格(JIS)によって制定された、コンピューター上などで漢字などを表示するためのIDの規格です。
簡単に説明すると、第1~第4水準漢字は、使用頻度順です。(JIS規格 X 0213)
例えば、一般的な漢字は第1水準に含まれていて、第2水準には地名や人名、旧字体などを含んでいます。
- 第1水準漢字: 2965字
- 第2水準漢字: 3390字
- 第3水準漢字: 1259字
- 第4水準漢字: 2436字
上記に加えて、非漢字1183字が含まれています。
上記以外に、JIS漢字コードの「X 0212」という規格には、「JIS補助漢字」として5801字の漢字が含まれています。(これ以外に非漢字 266字を収録)
中国・台湾
中国と台湾では常用漢字の数は大きく異なりますが、どちらも漢字のみを使う中国語ですので、日常生活を考えると大差はないと考えます。
(簡体字(かんたいじ)か繁体字(はんたいじ)の違いから画数が異なりますので、学習のしやすさは別ですが…)
中国の研究結果では、日常的には3500字の漢字を使うといわれています。
上記の「カバー率」に相当する研究結果は、
- 漢字 1000字: 92%程度
- 漢字 2000字: 98%
- 漢字 3000字: 99%に到達
とのことで、3000字で99%といっても1%不足していることを考えると、3500字は妥当な線といえます。
字数は数えきれないほど多いのですが、部首から成り立っているので理解しやすく、漢字から意味を想像できることも少なくありませんね。
3000年以上の歴史の中で作られた漢字文化は、とても奥が深くておもしろいものです。
今回もお読みくださり、ありがとうございました。
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