画数が最も多い漢字 - 日本・中国・台湾・古字
「画数が最も多い漢字」で検索すると、いろいろな情報が出てきます。
あまりにもいろいろな話が出てきて、誤った情報も多いので、なにが本当なのか分からなくなってしまいそうですが、この記事では噂も含めてできる限りの出典を含めて解説していきます。
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信じてはいけないガセ情報
はじめに、「画数が最も多い漢字」のようなキーワードで検索すると、検索結果に誤った情報が表示されることがあるので掲載しておきます。
ガセ情報の例
- 最も画数が多い漢字は「ビャンビャン麺」の「ビャン」で56画(または57画)
- 最も画数が多い漢字は108画
- 最も画数が多い漢字は144画
- 最も画数が多い漢字は1024画(または1025画)
- 最も画数が多い漢字は1億画(または9999万画など)
ガセ情報という理由
最も画数が多い漢字は「ビャンビャン麺」の「ビャン」で56画(または57画)
この字は古代中国の地方の漢字で、普段は使用されない"生僻字"に分類されます。
中国の常用漢字表である《通用规范汉字表》には含まれていません。
中国の常用漢字表外の漢字や古字・日本の漢字を含めるのであれば、もっと画数の多い漢字があります。(後述)最も画数が多い漢字は108画
おそらくこの情報は、日本人が個人製作した「ぼんのう」という創作漢字のことです。
個人の創作なので漢字ではなく、ある意味ひとつの芸術作品です。
作成者の「しょかき」という方が、ネット上で名乗りをあげています。
(個人的にとても面白いと思っています。)最も画数が多い漢字は144画
「龍」という字を3x3で9つ並べた文字が144画の漢字という情報です。
日本の読みで「ごつ」、中国語の読みで[jióng]という話ですが、漢字としての出所が明確ではなく、明時代の徐应秋《玉芝堂谈荟·龙生九子》に記述された"龙生九子不成龙,各有所好。"から生み出されたものと考えられます。("龙"は中国の簡体字で「龍」の字です。)
実際には、中国の《汉语大词典》には「龍」の字が4つで64画の文字はありますが、それを超えるものは収録されていません。中国語の読みで[zhé]で、日本語の読みでは「てつ」または「てち」といわれています。
仮に144画の漢字があったとしても最多ではありません。最も画数が多い漢字は1024画(または1025画)
おそらくこの情報は、「大団円で人を迎える」という「人」という字をたくさん書いて囲ったという噂の「絵」です。
ネット上にもその「絵」すら出てこないので、空想か落書きといえる悪ふざけのレベルです。
悪ふざけに悪ノリして、「大団円で人を迎える」の絵を作ってみました。
たぶん、こんな漢字感じです。全部で512人です。
※ CAD(コンピュータ作図)で作成しました。
最も画数が多い漢字は1億画(または9999万画など)
この情報は、中国のネットで出てくる噂です。信頼のおける教育サイトでも否定されていて、悪ふざけを超えて冗談のレベルです。
最も画数の多い漢字(古字)は172画!?
漢字の本家本元 中国のネットでも「画数が最も多い漢字」という話題はいろいろと出ています。
このような話題で出てくる画数の多い漢字はすべて古字で、現代では漢字として公的に認められているものではありません。
このような現代では使用頻度が極端に低く、馴染みのない漢字を"生僻字" [shēng pì zì]と呼びます。(または"冷僻字" [lěng pì zì])
172画で最多という噂の漢字 [huáng]
その中で、「画数が最も多い漢字」と言われているのが[huáng]という172画の漢字(古字)です。
古字なので現代では使われていませんが、いろいろと調べても出所がはっきりしないため「噂の」とか「172画!?」という表記をしています。
読み方は[huáng]ということで一致しているのですが、今のところ出所までは明確な情報がありません。
いくつかの説明によると、紀元前3000年くらいの漢字で、意味は「世界」を表すとのことです。
確かに漢字の作りから想像できますが、想像の域を出ないものです。
ただ、これがガセネタであれば、中国のネット上で指摘の声が出るはずですが、否定の意見も出てこないという状況です。
もちろん当時は漢字一覧表というものは存在せず、各々が創作できた時代ですので、「本当に公的に使われた漢字かどうか」という判定もできません。特に「世界」という意味の漢字は、一般的に使われて広まるようなものとは思えません。
冒頭の最多の画数の漢字が不確実な情報でしたが、2番目に画数の多い漢字です。
160画で2番目に画数が多い漢字 [léi]
2番目に画数が多い漢字 または 裏付けのある中で最も画数の多い漢字は、160画の[léi]という漢字で、こちらも古字です。
《集韵》(日本の漢字で「集韻」)という中国 宋朝時代(西暦1037年)に編纂(へんさん)された、漢字の音に基づいて韻を分けて編成された古代音韻学の著作で、全10巻で構成されている史料があります。
この《集韵》によると、この字は"雷"の古字であると解説されています。
漢字は「雨」と「田」「回」の組み合わせですが、構成の複雑さから、雷の恐ろしさが表現されているような気がします。
128画で3番目に画数が多い漢字 [hóu yóu]
この漢字も"雷"の古字で、128画です。
2番目の[léi]の雨冠がすべて無くなった構成なので少し画数は減りましたが、依然として書くのはたいへんです。1文字で2つの音が合わさっています。
日本でも有名な「ビャンビャン麺」の「ビャン」は56画(または57画) [biáng]
画数が多く難しい漢字として有名なので掲載しますが、この56画(または57画)は4番目ではありません。
「56画(または57画)」と1画の違いがあります。日本の漢字に当てはめて合計した画数は57画となりますが、中国では「56画」との表記が圧倒的に多く、一部では「57画」、また別の一部では「56画(または57画)」という表記になっています。
もしかすると、この字は42画という情報を見たことがあるかもしれませんが、これは間違いではありません。
お気づきのように、この字は基本的な漢字や部首の集合体ですので、現在の中国で使用されている「簡体字(かんたいじ)」 “简体字” [jiǎn tǐ zì]に部分的に置き換えることができます。簡体字にすると、画数は42画となります。
ビャンビャン麺は、現代の中国語で"biangbiang面"と書き、古字のため現代の漢字表記はありません。
とはいっても、伝統的に(また商業的に)残されている漢字であるため、上記とは違ってフォントによっては収録されている場合があり、環境が整っていればパソコンで表示可能です。
そういう意味では、古字で画数が多いにもかかわらず、多くの人の目に触れる機会が多くなった珍しい字でもあります。
「ビャンビャン麺」の「ビャン」の漢字については、こちらの記事で詳しく説明しています。
画数の多い漢字 - 日本・中国・台湾の漢字を比較
日本・中国・台湾は漢字を日常的に使用している国ですが、漢字は異なる場合があります。
画数の最も多い漢字の比較に入る前に、字体の違いを簡単に見ていきましょう。
こちらのページでは、日本・中国・台湾の漢字の違いを簡単に比較できます。
現代の日本の漢字
1923年に、国家による最初の標準的な漢字の選定が行われました。
当時の漢字は旧字体を用いていたため、常用漢字の選定とあわせて、複雑な字体から略字あるいは簡易字体としたものを正式な字体として選定しました。
その後、1942年には国語審議会が、それまでの常用漢字に代わる「標準漢字」を選定し、1948年に「当用漢字字体表」としてまとめられた漢字が、現代の日本の漢字です。
その後、1981年に「常用漢字表」が告示されて、当時の「当用漢字表」に置き換わりました。
参考リンク: 日本語の表記はどう変わったの?(国立公文書館 アジア歴史資料センター)
現代の中国の漢字
現代の中国では、"简化字" [jiǎn huà zì](日本の漢字で「簡体字(かんたいじ)」)と呼ばれる簡素化された字体が使われています。
この動きは1935年8月からはじまり、1986年に現在の基礎となる《简化字总表》 [jiǎn huà zì zǒng biǎo](日本の漢字で「簡化字総表」・中国の略称《总表》)が公布されました。
よく用いられる漢字ができるだけ10画以内になるように工夫されているもので、その後の改訂もあり、現在では2235字が含まれています。
現代の台湾の漢字
台湾では、"繁体字" [fán tǐ zì](日本語読みで「はんたいじ」)と呼ばれる字体が一般的で、現在では1982年に頒布した《國字標準字體》(日本の漢字で「国字標準字体」)が標準的な字体として採用されていますが、基本的に字体に大きな変更はなく2000年以上の歴史のある字体です。
このため、日本の旧字体に似ていて、旧字体と同じ または 近い字体を見ることができます。
次のページは、現代の日本・中国・台湾で画数の多い漢字です。