ペキン・ナンキン・カントン・ホンコンなどは日本語ではないから中国語?
中国のいろいろな地名、多くの場合は漢字を日本語読みしていますが、中国語読みと思われる地名が日本に定着している場合があります。
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日本語の発音ではない中国の有名な地名
あきらかに日本語ではない読み方には、例えばこんな都市があります。
- 北京(ペキン)
- 南京(ナンキン)
- 広東(カントン)
- 香港(ホンコン)
- 青島(チンタオ)
でも、これらの地名は中国語として通じないのです。
もしかすると、青島(チンタオ)は何とか通じるかもしれません。
なぜ、このような呼び方が定着しているのでしょうか?
中国語として通じない最大の理由
最大の理由は、中国の広東地方を中心に使われている言語「広東語」が由来であることです。
この広東語は、1950年代から60年代にかけて北京語を基に制定された中国の「標準語」とは大きく異なります。
この標準語は「普通話」[プー トン ファ]と呼ばれ、中国全土で使われるようになった歴史は長くありません。
※ 「普通話」を中国語では"普通话" [pǔ tōng huà]と表します。
なぜ広東語由来の発音が定着したのか
実は、確実にこれが正しい、という説はないようです。
例えば「北京」は、日本では江戸時代の書物では、「ホッキン」「ホクケイ」と記載されているともいわれています。
同時期の17世紀から18世紀にかけて、フランス人が「北京」の広東語の発音を基に"Peking"とアルファベット表記し、それがヨーロッパに広まったといわれています。このため、この発音が幕末に日本に持ち込まれ、定着したという説が一般的なようです。
英語でも"Peking"という表記が定着していました。
ただ、現代の広東語の発音記号となる「ピンイン(拼音)」では
北 [bak1] 京 [ging1]
となり、かなり異なります。
中国語の"普通话"が制定されてからは、その発音記号となる「ピンイン(拼音)」では
北 [běi] 京 [jīng]
と表記されます。
中国語をカタカナ表記することは難しいのですが、
ベイジュィン
や
ペイジュィン
に近い発音になります。
日本では「ペキン」という読みが定着しているため、報道機関でもそのまま採用されています。
現代の英語ではピンインから"Beijing"というスペルを採用していますが、これが中国語として正しいわけでもありません。
中国語の発音は英語とも異なり、それぞれのアクセントはもちろん、"京"の発音は英語の"jing"でもありません。
"jin"はカタカナ表記の「ジン」に近くはないですし、最後の"g"も英語の発音にしか出てきません。
また、カタカナで表記したように、実際の発音には「ュ」(小さいユ)が聞こえます。
参考までに、「北京首都国際空港」は
日本語で「ペキン しゅと こくさい くうこう」です。
英語では"Beijing Capital International Airport"です。
しかし、国際航空運送協会(IATA)により定められている空港のコードは"PEK"で、"Peking"の名残りがあります。
南京・広東・香港の中国語は?
それではその他の都市名を見てみましょう。
これらの呼び方も「北京」と同様に、広東語の発音から広まったと考えられています。
南京
日本語読み: ナンキン
中国語(標準)のピンイン: [nán jīng]
中国語(標準)のカタカナ表記: [ナンジュィン]
広東語のピンイン: [naam4 ging1]
英語: Nanjing
広東
日本語読み: カントン
中国語(標準)のピンイン: [guǎng dōng]
中国語(標準)のカタカナ表記: [グァンドン]
広東語のピンイン: [gwong2 dung1]
英語: Guangdong
香港
日本語読み: ホンコン
中国語(標準)のピンイン: [xiāng gǎng]
中国語(標準)のカタカナ表記: [シアンガン]
広東語のピンイン: [heung1 gong2]
英語: Hong Kong
広東語は中国語で"广东话" [guǎng dōng huà]といいます。
都市の名前としての「広東」は英語で"Guangdong"ですが、かつては"Canton"と呼ばれていたので、現代でも「広東語」は英語で"Cantonese"と呼ばれているのも名残ですね。
定着したものを変えていくのは、そうそう簡単ではないようです。
青島(チンタオ)の発音は?
はじめに「もしかすると、青島(チンタオ)は何とか通じるかもしれません。」と書いたのは、日本人が話す地名であることが前提であれば、かなり「普通話」に近い発音になります。
中国語では簡体字で"青岛"という漢字表記になります。
青島
日本語読み: チンタオ
中国語(標準)のピンイン: [qīng dǎo]
広東語のピンイン: [ching1 dou2]
英語: Qingdao
この場合、日本語読みの「チンタオ」は、「広東語」よりも「普通話」に近い発音です。
「普通話」での中国語読みをカタカナ表記すると、[チンダオ]になります。
ピンイン表記では[q]で始まっていますが、英語の発音よりもカタカナ表記の方が中国語に近くなります。
四川(シセン)の発音は?
もしかしたら四川(シセン)も、日本語っぽくない発音に感じるかもしれませんが、
四川は中国語で[sì chuān]となり、カタカナで書くとしたら「スーチュアン」という表記が近くなります。
発音を音声で確認
今まで出てきた地名を、音声で確認してみてください。
中国の「こうしゅう」はどこ?
本題からはそれますが、中国の地名で日本語読みしたら「こうしゅう」となる省都(しょうと)は2か所あります。
浙江省(せっこう)の杭州市も、広東省(かんとん)の広州市、いずれも日本語読みでは同じ「こうしゅう」ですが、漢字も違いますし、中国語読みではまったく異なります。
杭州 [háng zhōu]
广州 [guǎng zhōu] (日本の漢字で広州)
で、あえてカタカナ表記すると それぞれ
杭州 [ハンジョウ]
广州 [グァンジョウ]
と、明確な違いがわかりますね。(詳しくは、中国の地図を参照してください。)
次のページは、日本の地名の中国語での読み方です。