本来の四川料理は辛くなかったという事実
日本の中華料理店や食品業界では「四川風」というと「激辛」「麻辣(マーラー)」の代名詞みたいなもの。
でも、長い四川の歴史から見ると、辛い料理の歴史は わずか200余年とも言えます。
伝統的な四川料理には様々な味付けがあり、辛い四川料理は全体の30%程度と言われています。
四川の人にとって辛い料理は一般的になっていて、「辛くないものは好きじゃない」という人も多いのも事実です。
ただ、日本の「四川風」は本場の味付けとも違いますし、辛さレベルも"微辣"程度でしかありません。
ちなみに、「私は辛いものは食べられません」という中国語は
我不能吃辣的
[wǒ bù néng chī là de]
[ウォーブゥナンチーラーダ]
ですが、四川人に向かって「私は辛いものは大丈夫です。」(中国語で"我能吃辣的")なんていうと、とんでもない誤解になってしまうかもしれません。
辛い四川料理についてはこちらの記事をご覧いただくとして、今回は個性豊かな「辛くない四川料理」をご紹介します。
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伝統的な辛くない四川料理(川菜)
四川料理は中国語で、"四川菜" [sì chuān cài]と呼んだり、略して"川菜" [chuān cài]と呼びます。
はじめに"国宴名菜" [guó yàn míng cài]と称される、見た目も芸術的な逸品から!
※ カッコ内は日本の漢字とできるだけ近いカタカナ発音です。
开水白菜 (開水白菜・カイシュイバイツァイ)
"开水白菜" [kāi shuǐ bái cài]は、日本語に直訳すると「水やり白菜」なんて風変わりな名前ですが、これを見ると一目瞭然の芸術品だとわかります。
見た目の美しさと、白菜だけ、という視覚的要素から淡白な味を思い浮かべそうですが、この澄みきったスープはとても手の込んだもので、丸鶏と骨付き豚もも肉から丹念に作られるスープが特徴です。
チャンネル登録者数655万超を誇る、美食作家王刚Rさんの動画では、レシピと作り方を見ることができます。
しかしながら、このスープの食材から想像できるように、苦手な方には視聴はお勧めしません。
完成型の優雅な姿を見るだけに留めておいた方が良い気もします。
【開水白菜の作り方動画】厨师长分享:“开水白菜”的传统做法,百菜不如白菜
さて、「辛くない四川料理」はたくさんあるのですが、一般的に食べられている料理で美味しい四川料理を知るには、やはり現地人が一番!ということで、四川人の友人にも聞いてみました。
その"川妹子" [chuān mèi zi]の友人は、最初"四川人是无辣不欢啊" [sì chuān rén shì wú là bù huān a](四川人は辛くないものは好きじゃないよ)と言いながらも、いろいろ食べた中から2品をおススメとして教えてくれました。
樟茶鸭 (樟茶鴨・ジャンチャーヤー)
"樟茶鸭" [zhāng chá yā]は日本風(?)にいうと「シナモンティー・ダック」という料理で、シナモンと紅茶の香りに、中国のスパイスの香りが合わさった燻製です。
スパイスには香りが特徴の八角・ちんぴ・花椒(ファージャオ)・生姜などが用いられ、辛くありません。
スパイスと酒・塩で煮込み、漬け込みまでに6時間以上をかけ、その後、シナモンと紅茶葉などの材料で燻製にする、というとても手の込んだ料理です。
皮はパリパリで、「金色に輝く」と表現される色合いも美しい、五感で楽しめる四川の伝統的な名菜です。
咸烧白 (鹹焼白・シィァンシャオバイ)
端的に言うと"咸烧白" [xián shāo bái]は「チャーシュー」ですが、作り方は日本のチャーシューとは異なります。
煮込み・焼き・味付け・脂落とし・焼き・味付け・スライス・味付け…と複数の手順を繰り返して、最後はからし菜などと一緒に蒸して完成させます。
味付けは、醤油・塩・花椒(ファージャオ)・砂糖などの材料で、丹念に作られる逸品です。
锅巴肉片 (鍋巴肉片・グオバーロウピェン)
"锅巴肉片" [guō bā ròu piàn]は、米で作った「おこし」のような見た目で軽い塩味がついた甘くない"锅巴"の上に、豚の背肉や野菜の炒め物をかけた料理です。
あえていうなら、豚肉は揚げず、片栗粉での とろみをつけない「酢豚」を、「おこげ」にかけたような料理ですが、"锅巴肉片"は四川の伝統的な名菜なので、こちらが本家本元ですね。
甜皮鸭 (甜皮鴨・ティァンピーヤー)
"甜皮鸭" [tián pí yā]は、清朝の御膳にルーツを持つ料理で、後世に民間によって発見に至ってアレンジされたものです。
五香粉として定番の花椒・八角・ちんぴ・フェンネル・チョウジなどの香り高いスパイスに加え、塩や水あめ・氷砂糖(または蜂蜜)を使ってほのかに甘く仕上げたロースト・ダックです。
水あめを使うので、表面の皮はつややかな色合いとなっています。
フライパンを使って、家庭でも作ることができます。
鸡豆花 (鶏豆花・ジードウファー)
一見すると豆腐料理のような"鸡豆花" [jī dòu huā]ですが、材料に豆腐は使われていません。
鶏の胸肉のミンチを使い、塩・鶏ガラスープ・ネギなどのシンプルな材料で、豆苗とあわせて煮込みます。クコの実などを添えて、色合いを整えます。
肉を食べるのに肉が見えない、見た目においても味わいにおいても素朴な良さが感じられます。
老妈蹄花 (老媽蹄花・ラオマーティファー)
"老妈蹄花" [lǎo mā tí huā]は、豚足の料理なので、辛くないにしても好みが分かれるところだと思います。
四川省成都市の伝統的な名菜で、豚足とインゲン豆を生姜・花椒(ファージャオ)・白コショウ・酒などで煮込んだものです。
なめらかで口当たりが良く、脂っこさもない上品な逸品として知られています。
現地では酢・醤油・辣椒(ラージャオ)・塩・砂糖などを合わせた辛みのある たれにつけて食べるのが一般的ですが、自分好みに調整できます。
竹荪肝膏汤 (竹荪肝膏湯・ジュウスンガンガオタン)
"竹荪肝膏汤" [zhú sūn gān gāo tāng]の"竹荪"は、キヌガサタケというキノコです。
このキヌガサタケと、一般的には豚レバーを蒸したものを煮込んだスープですが、鶏レバーや鴨レバーを用いることもあります。レバーの生臭さはネギや生姜で取り除きます。
味付けは塩とコショウを使い、卵白も加えた澄んだ白色のスープです。
固めたレバーの食感を崩さないように蒸し、スープとあわせて煮込む時まで火加減を調整し続ける技術を要する、宴席上での高級料理としても知られています。
砂锅雅鱼 (砂鍋雅魚・シャーグオヤアユウ)
四川省雅安市の名菜"砂锅雅鱼" [shā guō yǎ yú]は、"雅鱼"という雅安で育った鯉に似た形の川魚を使った料理です。
魚料理ではありますが、スープには鶏・豚・エビ・イカに加えネギ・生姜・ニンニクなどを加え、塩・コショウで味付けしたバランスの取れた味わいに仕上がっています。
この写真の食材以外にも、トマトやチンゲン菜・キノコ・タケノコ・ハムなどを加えたアレンジが数多くあります。
いかがだったでしょうか?
辛い麻辣(マーラー)で有名な四川ですが、辛い物が好きな方も、そうでない方も、本場の「辛くない四川料理」で新しい味覚を楽しんでいただければと思います。
今回もお読みくださり、ありがとうございました。
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