四川料理は辛い中華料理の代名詞?
町の中華料理店に行くと、「四川風麻婆豆腐」や「四川ラーメン」など「四川」という名前のついた辛い料理を見かけます。
「四川風」と聞くだけで辛そうなイメージがわいてきますが、本場の四川料理やその他の中国の辛い料理を含めて、その真偽について調べてみました。
四川風とは?中国でいちばん辛い料理? - 結論から
はじめに、こちらが結論になります。
- 四川料理は、麻辣(マーラー)という特徴のしびれる辛さで有名
- 辛さで有名な四川料理だが、実際は辛い料理の割合は想像より多くない
- 四川料理の辛さは、中国国内でも最強とは言えない
- 中国最強の辛さといえば、実は湖南省の方が有名
今回は写真も多めに掲載して、最後には興味深い動画も紹介していますので、お付き合いいただければと思います。
早速、見ていきましょう。
中華料理と中国料理は違う?
日本語では「中華料理」という呼び方をしますが、中国語ではこのようには呼びません。
あえて言うなら"中国料理" [zhōng guó liào lǐ]とか "中国菜" [zhōng guó cài]になりますが、広大な国土で地方によって特色が大きく異なる中国では、このような呼び方は一般的ではありません。
各地方の名前を使って"~料理"とか"~菜"と呼ぶのが一般的です。
例えば四川料理は"四川菜" [sì chuān cài]と呼んだり、略して"川菜" [chuān cài]と呼びます。
日本でもおなじみの「麻婆豆腐」や「ラーメン」など一部はありますが、同じ料理名でも別ものと考えた方がよいです。
日本独自の「中華料理」の方が多いくらいです。
四川料理とは?
四川料理とは郷土料理の総称
上記のように、「四川料理」(中国語の"四川菜","川菜")は、郷土料理としての総称ですので、辛い料理とは限りません。伝統的な料理も含めると、むしろその割合は少ないといえます。
それでも、四川料理と言えば、"麻辣" [má là]の味が中国国内でも有名です。
日本語でも「マーラー」という呼び名を聞くようになってきましたが、しびれる(麻)辛さ(辣)を意味します。
唐辛子である"辣椒" [là jiāo]と"花椒" [huā jiāo]というスパイスをメインに、にんにくやショウガなどが使われます。
四川の唐辛子の辛さは、日本の辛さの比ではなく、日本の「激辛」は四川の"微辣" [wēi là]のレベルと思った方が良いくらいです。
ただ、実際のところ、唐辛子は「唐」が ついても中国原産ではなく、中南米が原産です。
これがヨーロッパ経由で中国に伝わったのが15世紀末といわれ、四川に伝わったのは18世紀ともいわれています。
そのようなわけで、中国の長い歴史から見れば四川の辛い料理の歴史は、わずか200余年とも捉えることができます。
伝統的な四川料理にも様々な味付けがあり、辛い四川料理は全体の30%程度と言われています。
それでも、四川の人にとって辛い料理は一般的になっているのも事実です。
四川で有名な辛い料理
四川で有名な辛い料理にはこのようなものがあります。
中には日本でもよく聞く名前や、見た目だけでは辛くなさそうな料理もありますね。
四川麻婆豆腐
麻婆豆腐の見た目は日本のものと大きく変わりませんが、とろみは使いません。
1862年創業の四川省にある"陳麻婆豆腐店" [chén má pó dòu fu]というお店が発祥で、この豆腐料理を作った"陳麻婆"という呼び名の女将さんから命名された料理です。(創業時の店名は「陳興盛飯舗」)
※ 日本で有名な料理人 陳建民氏・陳健一氏とは無関係です。
陳麻婆豆腐店は日本にも出店しています。(現在の味が当時と同じかは不明)
一般家庭料理なので、外食メニューでは見かけません。
四川魚香豆腐
"鱼香味" [yú xiāng wèi]という四川の代表的な味付けを生かした豆腐料理です。
四川担担麺(タンタンメン)
見た目はそれほど辛そうではないかもしれませんが、やはり四川です。
四川では「汁なし」と「汁あり」の両方があります。
四川口水鶏(よだれ鶏)
日本でも見かけるようになった「よだれ鶏」ですが、味は別物です。
日本の「中華料理店」では中国の「よだれ鶏」に匹敵する旨さには出会えていません。
油淋鶏 (ユーリンチー)
日本でも知名度が上がってきている「油淋鶏 (ユーリンチー)」の本場は四川です。
また、広州の"油林鸡" [yóu lín jī]は辛くない料理です。
棒々鶏 (バンバンジー)
中国の"棒棒鸡" [bàng bàng jī]も四川が本場です。
日本の「棒々鶏」とは見た目も全く違う料理で、辛い料理というイメージはないように思います。
四川ではなぜ辛い料理を食べるのか?
唐辛子が中国に伝わってから、様々な地方の料理に取り入れられていますが、例えば上海の料理は辛くありません。
なぜ四川では辛い料理を食べるのでしょうか?
これには地理的な要素が大きいといわれています。
四川は盆地で、湿度の高い場所です。
そこで、体内の水分を出すということから発汗作用のある唐辛子は有用で、多くの人たちに食されるようになりました。
昔の四川への道のりは険しいもので、古くから
蜀道难,难于上青天
[shǔ dào nán, nán yú shàng qīng tiān]
蜀への道は難しく、天に昇るより難しい
と言われてきました。
交通の便が悪いため、塩を入手することも容易ではありませんでした。
味が淡白になりすぎることから、唐辛子が四川に入ってきた時には、とても魅力的な調味料となりました。
このような背景から、四川では多くの唐辛子を取り入れ、地域の習慣・文化として根付いていきました。
四川料理の辛さは最強ではない?
四川はこのような背景から唐辛子が一般的になりましたが、湖南、重庆(重慶)、江西などの湿度の高い盆地においても、同様に多くの唐辛子が料理に取り入れらています。この地図を見ると、地理的に固まっていることがわかります。(実際は広大ですが・・・)
※ 地図は唐辛子の一人当たりの年間消費量による分類で、この地域以外でも辛い料理はあり、個人差もあります。
地図:TUBS , translated by Ericmetro - 投稿者自身による作品このW3C-unspecified ベクター画像はAdobe Illustratorで作成されました.This file was uploaded with Commonist.This vector image includes elements that have been taken or adapted from this file: Zhejiang in China (+all claims hatched).svg (〜によって China Hainan-2.svg)., CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=21311091による
人によって若干差異はありますが、中国ではこのように表現されています。
四川人不怕辣,江西人辣不怕,湖南人怕不辣
[sì chuān rén bù pà là, jiāng xī rén là bù pà, hú nán rén pà bù là]
- 四川の人は辛いものは怖くない
- 江西の人は辛ければ怖くない
- 湖南の人は辛くないものが怖い
次ページは、四川以外の有名な辛い料理です。