英語の複数形はなぜ重要?
日本語には、英語のような複数形はないので、頭の中では分かってはいても、会話や文章の中で複数であることを意識して表現することは あまりありません。
英語を話したり、英文を書いたりするとき、また、英語を日本語に翻訳する時、複数形を意識することは、場合によってはかなり重要です。
普段あまり意識しないことですので、今回、記事にまとめていきたいと思います。
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日本語での複数表現
もちろん日本語にも、複数を表現する方法はあります。
数量を表現するために、副詞または形容詞としての用法があります。
例えば、
- 多くの場合、複数形は用いない。
- 会場にはたくさんの人がいる。
- 少ない投資で効果を出す。
- 複数の方法がある。
といった感じです。
また、複数を表す言葉で、「~たち(達)」を使うこともありますね。
- 子ども → 子どもたち
- 友人 → 友人たち
それでも、この「子ども」や「友人」(または「友達」)が必ず1名かというと、そうとも限りません。
中国語での複数表現
これは中国語でも、ほとんどの場合は日本語と同じようなことが言えます。
中国語には「~たち(達)」に相当する言葉で"们" [men]がありますが、"们"がつかない場合は基本的に単数となります。(これは「人」以外には、基本的に当てはまりません。)
- 你 [nǐ] → 你们 [nǐ men]
英語でなぜ複数形は重要なのか - その理由
英語の複数形
念のため…ですが、英語の複数形とは、その名詞が単数(ひとつ)ではなく、複数であることを示すために名詞を変化させるものですね。
ほとんどの場合は、名詞の最後に"~s"を追加します。
- 本: book → books
また、最後が"h","s","x"で終わる名詞では、ほとんどの場合、最後に"~es"を追加(または一部置き換え)します。
- 魚: fish → fishes
- 工程: process → processes
- 軸: axis → axes (axisesという表記もあり)
例外的に、上記以外の変化や名詞の形が完全に変化してしまう場合もあります。
- 男性: man → men
- 女性: woman → women
- 子ども: child → children
- 雄牛: ox → oxen
(「大きくて強い人」の意味では ox → oxes) - ねずみ・マウス: mouse → mice
さらに例外として、複数形でも変化しない名詞もあります。
- 鯉: carp → carp
- ソフトウェア: software → software
別の例外ですが、もともと対で構成されている物の単語は複数形になっているものもありますので、これについては後ほど追加で説明します。
- 眼鏡: glasses
- ズボン: 【英】trousers, 【米】pants
- はさみ: scissors
少し書き出しただけで結構 例外が出てきましたので、このくらいにしておきます。
英語の複数形が重要といえる理由 - 活用のすすめ
英語の複数形は細かい点で面倒なものですが、これを意識するのは重要です。
この理由は、複数形を使うことによって、簡単に表現の幅を広げることができるからです。
日本語では「いくつもの○○」と表現することによって、たくさんある種類や選択肢を示すことができますが、英語では複数形を使うことで、これを簡潔に表現できてしまうのです。
逆に、単数形を使うことで「あるひとつの○○」の表現にもなり得るので、複数形にするかどうかで、大きく意味が変わるのです。
英語ネイティブは(おそらく日本人が考える以上に)複数形の意味を敏感に感じ、活用しています。
ずいぶんと昔の話にはなりますが、このことについて筆者の気づきとなった出来事があります。
それは、当時の英国人社長と話をしながら、英語のプレゼン資料を作成していたときのことですが、「この製品はユーザーにとって利点をもたらすものです」という感じの一文を書き加えました。
その時に指摘されたのは、「利点」を意味する"benefit"は"benefits"に変更するように、ということでした。
その時は「あっ」と思って、とっさに言われるまま書き換えたのですが、後から考えると、この複数形に大きな意味があることを教えられました。
複数形の"s" たった1文字で、簡単に「ひとつではなく、数多く」であることを表現できるのです。
この出来事は小さなことかもしれませんが、状況によっては大きな違いとなり得ますので、日本語にはない複数形の訴えかける意味や重要性を意識するようになりました。
「持続可能な開発目標」はSDGs
有名な言葉を例にあげると、2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発目標」は、英語で"Sustainable Development Goals"で、略して"SDGs"と"s"がついています。(すべて大文字表記で"SDGS"の場合もあり)
"SGDs"とは「貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動」(国連開発計画による解説)で、分野別の17の世界的目標のすべてが重要であることを強調する意味で、この"s"は欠かせません。
"SDGs"の前の取り組みは「ミレニアム開発目標」でしたが、こちらも"MDGs"と表記されます。( Millennium Development Goals)
複数形の翻訳時の注意点
英文を和訳する際にも、このような視点に注意を払うことで、より質の高い翻訳ができることと思います。
先の"benefits"を和訳する場合、これは単に「利点」と翻訳するのではなく、あえて「いくつもの利点」「数多くの利点」とする方が適切です。
別の例で、"products"という記載があったとします。
これは「商品」「製品」を意味する"product"の複数形ですが、文脈によっては「製品群」とした方が幅広さ、つまりラインナップの豊富さが強調できます。
また別の例として"dreams"という表現があったとします。
この文章が"Achieve your dreams!"だった場合、単数形の"Achieve your dream!"と比べて、感覚的に数多くの夢をかなえられそうな気がしませんか?
もし、この英文を書く時に、1点集中の夢をかなえることに焦点を当てているのであれば、あえて単数形を使うでしょう。
または、"Achieve the dream of yours!"のように冠詞"the"で「夢」を特定した上で、「あなたのもの」である"yours"を最後に持ってくる強調もできます。
英語には量詞がない不便さ
日本語や中国語など、多くのアジアの言語には量詞、たとえば「3個」「5枚」といった数えるための単位がありますが、英語には量詞はありません。
このため、英語では量詞を覚える必要がない点は楽なのですが、複数形に注意しないと誤解を招きます。
例えば、パソコンのLANの接続口について、このような表現があったとします。
2 Gbps LAN ports
"Gbps"(ギガ・ビーピーエス)というのはLANの速度の単位なのですが、これを"2 Gbps"と捉えると混乱してしまいます。
規格上は、1 Gbpsの上は10 Gbpsなので、"2 Gbps"の規格を探しても見つかりません。
ただ、よく見ると"ports"と、接続口(ポート)が複数形になっていますので、この2という数字は接続口の数、つまり2口の1 GbpsのLANポートという意味になります。
英語では"2 port of 1 Gbps LAN card (board)"と表記もできますが、複数形が自然で量詞の概念がない英語圏の人にとっては、回りくどい書き方とも言えます。
※ 一般的に平たい部品なので"card"と呼んだり、電子回路基板の"circuit board"を略して"board"と呼んだりしますが、1枚なので単数形です。
こんなところでも、複数形は重要になってくるのです。
次ページは、複数形の使い方で間違いやすい点です。