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中国の法律では?
中国では選択式でない夫婦別姓
中国では、選択式でない夫婦別姓になっていて、簡単に言えば
結婚しても夫婦の姓は変わらない
ということです。
正確に言うと
夫妻双方都有各自使用自己姓名的权利
夫婦双方はいずれも、各自の姓名を使用する権利がある
《中华人民共和国民法典》 第一千零五十六条
となっています。
この《中华人民共和国民法典》 [zhōng huá rén mín gòng hé guó mín fǎ diǎn](略称: 《民法典》 [mín fǎ diǎn])は、2021年1月1日に施行された新しい法律ですが、それ以前も《中华人民共和国婚姻法》 [zhōng huá rén mín gòng hé guó hūn yīn fǎ] (略称: 《婚姻法》 [hūn yīn fǎ]) 第十四条によって同様に定められています。
これは、男女平等の考えとして表されています。
婚姻家庭受国家保护。
实行婚姻自由、一夫一妻、男女平等的婚姻制度。結婚と家族は国によって保護される。
《民法典》 第一千零四十一条
結婚の自由、一夫一妻、男女平等の婚姻制度とする。
ということになります。
もしかすると、「各自の姓名を使用する権利がある」という条文を読んで、「それなら、この権利を放棄して夫婦同姓にできるのでは?」と思った方もみえるかもしれません。
確かに、この権利を放棄して姓を変更することはできるのですが、よほどのことがない限り、例えば世間から身を隠すなりの必要が出た、ということがない限り姓を変えることは極めてまれで、中国人にとっては「結婚を機に姓を変える」という発想すらないのが普通です。
中国人から見た日本の夫婦同姓
中国では夫婦別姓が普通のことなので、日本での議論と"日本夫妻同姓" [rìběn fū qī tóng xìng]に、一定の関心が集まっているようで、いいところ・よくないところの意見もあげられています。
下記に少しだけ例をあげてみます。
夫婦別姓の中国から見ると、夫婦同姓に対しての好意的な意見は少ないようですが逆に新鮮な感じもあるようです。
良い点は子供に関することが多くあげられています。また、悪い点とされているのは、日本での議論と大きくは変わらないようです。
良い点
- 血縁関係のないお互いが、一つの姓で一生を共にできるのは羨ましい。
- 子どもの姓の議論で、夫婦間の軋轢がなくなる。
- 家族全員で同じ姓で生活できることは、誇りでもあるし幸せでもある。
悪い点
- 姓を変えるための、いろいろな手続きが面倒。
- 女性が男性の性に変更しなければならないことは、女性差別である。
※ 「習慣的に」という論点や、事実誤認もあるようです。 - 親族関係が絡むため、それぞれに家系に影響がある。
余談: 中国人の姓(苗字)の人口比
余談ですが、中国では少数民族も含めると5,000を超える姓(苗字)があるといわれています。
人口で最多の漢民族は90%超ですので、実際には日本の方が苗字の種類はずっと多く感じます。
※ 日本では、一般的には12万~15万、一説によると30万とも言われています。
2014年の《第六次全国人口普查》 [dì liù cì quán guó rén kǒu pǔ chá] (国勢調査)のデータによると、苗字の人口ランキングは次のようになります。
※ カッコ内は日本の漢字です。
- 王 (王) 7.10%
- 李 (李) 6.96%
- 张 (張) 6.42%
- 刘 (劉) 5.16%
- 陈 (陳) 4.26%
中国は夫婦別姓ですが、図らずも夫婦同姓になる確率は、日本よりも高くなりますね。
といっても100人中7人の王さん同士でも、単純計算で0.5%程度ですが…
逆に、夫婦別姓なのに同姓同名の夫婦がいるのは驚きかもしれません。
2018年の時点では、3組の夫婦が同姓同名とのことです。
全体からすると本当に珍しいといえますね。
夫婦別姓の場合、家系はどうなる?

日本では、結婚によって姓を変えることは(たとえ形式上であっても)「どちらの家に入るか」を意味することにもなります。
中国での家系の決め方
夫婦別姓の中国にも同じような規定があります。
登记结婚后,按照男女双方约定,女方可以成为男方家庭的成员,男方可以成为女方家庭的成员。
婚姻届後には、夫と妻の合意によって、妻が夫の家族の一員となるか、夫が妻の家族の一員となることができる。
《民法典》 第一千零五十条
ということで、別姓か同姓かは家系には関係ないものと捉えられます。
一般的には夫側の家系となることが多く、儒教の観点に基づく習慣は残っています。
結婚となると完全に2人だけのことではないことが多くあり、習慣や世代による考え方の格差もあるため、夫婦別姓でもいろいろとありそうです。
子どもの姓はどうなる?

子どもを持たない夫婦も多くいるものの、結婚となれば子どものことを考えるのは自然なことです。
中国の子どもの姓は父親もしくは母親の姓
中国の子どもは、原則として父親もしくは母親の姓を名乗ることになります。
中国では一般的な習慣として、父親の姓を名乗ることが多い状況ですが、両親が話し合って子供の姓を決めることになります。
このため、少数派ですがこのような決定をしている夫婦もあります。
- 男の子が生まれたら父親の姓、女の子が生まれたら母親の姓
- 第1子は父親の姓、第2子は母親の姓
もちろん、この逆パターンもあり得ますし、家庭ごとで自由です。
中国では「一人っ子政策」は終了していますし、「一人っ子政策」の間でも第2子以降がいる場合もあります。
事実として「夫婦別姓」が、両親の決定によって「兄弟別姓」になり得ます。
中国の法律が定める子どもの姓
上記のように、中国では
原則として父親もしくは母親の姓
となりますが、
例外として
- 直系の血筋である年長者の姓
- 法的な扶養者(例:肉親)以外が扶養している場合、扶養者の姓
- その他 公序良俗に反しない正当な理由がある場合
上記の場合には、父親もしくは母親の姓とは限りません。
また、少数民族の文化伝統や習慣を尊ぶことも明記されています。
※ ここに疑問を感じた方もみえるかもしれませんが、やはり法律と現実との乖離はあります。日本でも少なからずありますね。
自然人应当随父姓或者母姓,但是有下列情形之一的,可以在父姓和母姓之外选取姓氏:
《民法典》 第一千零一十五条
(一)选取其他直系长辈血亲的姓氏;
(二)因由法定扶养人以外的人扶养而选取扶养人姓氏;
(三)有不违背公序良俗的其他正当理由。
少数民族自然人的姓氏可以遵从本民族的文化传统和风俗习惯。
上記は最新の《民法典》によるものですが、これ以前の《婚姻法》にも同様の規定がありました。
子女可以随父姓,可以随母姓
《婚姻法》 第二十二条
2014年の「全国人民代表大会常務委員会」では、法律解釈として例外的な状況を認め、新しい《民法典》に反映されています。
中国の子どもの呼び名
中国では、親が子供に対して愛称をつけて呼ぶことが多くあります。
この愛称を"小名" [xiǎo míng]や"乳名" [rǔ míng]と呼びます。
名前に関係する文字を入れる場合もありますし、まったく異なる名前を付ける場合もあります。
また、名前というよりは普段の呼びかけとして"宝贝" [bǎo bèi]のように「宝物」の意味をもった単語などを使う場合もあります。
ここまででも日本とずいぶんと習慣が違いますが、一番大きな違いと思うのが
子どもをフルネームで呼ぶことも珍しくはない
ということです。
中国人の名前は一文字であることも多く短いため、フルネームで呼ぶ方が語感がよいため、このように呼ぶことがあります。
このような家庭の子どもは、小さいころから姓名の語感により濃く染まっている、と考えるのは難しいことではありません。
中国の身分証明書の登録
中国では16歳になると身分証明書となる"身份证" [shēn fèn zhèng]を発行するため、登録する必要があります。
※ 16歳未満でも、希望により両親によって登録できます。
この時には、自身の名前が正式な身分証明書に反映されるため、子ども自身がどちらの姓を名乗るか決定することになります。
法律の許す範囲内であればその後の変更も可能ですが、子どものうちでも、もしくは子どもだからこそ、姓を変えるのはいろいろと煩わしいことと言えます。
余談: 中国人の民族の登録
苗字とは関係はありませんが、中国の身分証明書には"民族" [mín zú]の登録も必須になります。
中国の90%以上は漢民族("汉族")ですが、中国の56民族のうちいずれかに属することになります。
父母とも同じ民族の場合は、子どももその民族を引き継ぐことになりますが、異なる場合はここでも同様の選択が必要になります。
この場合も、一般的には父親の民族となることが多いのが実情です。
ただ、たとえば父親が"汉族" [hàn zú]で、母親が"壮族" [zhuàng zú]だった場合、子どもは"汉族"か"壮族"のいずれかを選ぶことができます。
このため、兄弟がいる場合は「兄弟別民族」にもなり得ます。
将来に渡っては予測できないことが起こりうるので、選択も悩ましいように思えます。
余談の余談: 外国人が中国人に帰化する時の民族は?
外国人が帰化して中国籍となる場合でも、民族の登録は必須となります。
中国の56民族のうち、すでに関連のある民族であれば近い民族を選択することになりますが、どれにも当てはまらない場合は、自由に選択することができるのです。
56民族のうち、何でも好きな民族になれる、こんなチャンスはなかなかありませんよ!
※ 筆者は帰化するつもりはありません…
離婚の場合

結婚が一生幸せなものとできばそれに越したことはありませんが、実際問題としてうまくいかない場合もあり得ます。
「離婚は結婚より労力を使う」なんて話もありますが、姓に関しては元々別姓であれば、面倒なことは少しは軽減されます。
もっとも、離婚に備えて結婚時に別姓にしておきたい、という人は少数だとは思いますが…
離婚した場合の子どもの姓
たとえば、子どもが父親の姓を名乗っていて、離婚することによって母親に養育されることになった場合、姓を変更したいと考えるかもしれません。
日本の場合は、夫婦はいずれかの姓を名乗っていますので、親が元の姓に戻す場合は親にあわせて子どもも変えることが一般的です。
中国の場合は、親はもともと別姓なので、必要であれば子どもだけが変更することになります。
結婚と離婚の状況変化
晩婚化・独身の増加と離婚の増加
日本でも晩婚化・独身の増加、離婚の増加がよく言われていますが、中国でも同様の傾向があります。
無意味な「離婚率の高さ」の煽り
中には、年間の婚姻件数と離婚件数を割り算するだけで、「とても高い離婚率」と煽っているいい加減な記事も見かけます。
これは、例えば年間の婚姻件数が60万件だった年に、離婚件数が20万件だった時、3分の1が離婚していると言っているものです。
このような比較は、婚姻件数が減ってきている中では特に意味がありません。
婚姻件数は開始が明確なので数値は正確ですが、その後の離婚率となると何年後か先の話となり、追跡の上で統計を取る必要がありますが、その間にも新たな婚姻が発生しているのですから、正確な割合は不明です。
さらに離婚ができず別居状態が続いている場合もありますので、正確な状況を把握するのは困難を極めます。
本当の離婚率は?
上記の理由から本当の数字は算出できないものの、サンプルとなるデータを取り出すことで各国の政府が公表している数値があります。
日中両政府公表の離婚率
- 日本 約1.7%
- 中国 約3.4%
集計方法が異なるので、この数字だけ比較して「中国は倍の離婚率」ということも正しくありません。
2019年までのデータですが、下のグラフは中国政府が公表している数値をまとめたものです。
「傾向としては日本と変わらない」といえます。

さまざまな要因があっての晩婚化・独身の増加と離婚の増加で、日本も中国も背景が異なる部分も多々あります。
ただ、傾向をみる限り、「夫婦別姓は家庭の絆に影響する」という意見に対しては、「顕著な違いがある」とまでは言い切れないようで、多くの要因がありそうです。
「夫婦別姓制度」を考える
家庭の幸せを維持向上するには、本人の努力次第の部分もあるものの、それだけではありません。
繰り返しになりますが、「選択式夫婦別姓制度」はとても奥の深い話なので、筆者には「賛成」「反対」の態度はありません。
その他にも、家庭の幸せや個人の権利を守るために、政府としての支援が必要なことはたくさんあって、各人が思うところがあるのではないでしょうか。
自分自身で何かしらの法制化の行動を起こすまでにはいかないにしても、今後法律化の動きとなって国民投票となれば、日本国民として意見を表明することになります。
この記事では中国の状況についてご紹介しましたが、いろいろな観点のうちのひとつの参考となれば嬉しく思います。
今回もお読みくださり、ありがとうございました。
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