馬馬虎虎(マーマーフーフー・まあまあふうふう)とは?
中国語の「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」
という言葉は聞いたことがありますか?
中国の簡体字で書くと"马马虎虎"となります。
今回は、この言葉をご紹介します!
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「馬馬虎虎」は中国の成語のひとつ
中国語には、日本と同じように多くの「成語」「慣用句」があります。
中国語で"成语" [chéng yǔ]といいます。
この"成语"の表現で
马马虎虎 [mǎ mǎ hǔ hǔ]
という言葉があります。
「馬馬虎虎」の意味
馬と虎という勢いのある動物の組み合わせながら、日本語の語感からすると、「マーマーフーフー」という音は何だか気の抜けたような感じがしますね。
この言葉には
浅はか
大雑把
ずさんな
いい加減
のような意味があります。
ここから転じて
適当に
まあまあ
そこそこ
という意味にもなって広まりました。
ただ、一般的な中国語として「まあまあ」を表現するには、
还可以 [hái kě yǐ] [ハイカーイー]
が適切な言葉です。
英語では、careless, casual, so soという表現が近いものです。
例文
他做的事都马马虎虎的
[tā zuò de shì dōu mǎ mǎ hǔ hǔ de]
彼のすることはすべていい加減だ
このように、形容詞のように使うことができる成語ですね。
「もしかして日本語の「まあまあ」は、この「馬馬虎虎」が語源では?」と思いましたが、結論から言うと関係ありません。
この理由は後ほど書いていきます。
「馬馬虎虎」の語源
この「馬馬虎虎」という言葉は、中国の小説家 茅盾 [máo dùn] (ぼう じゅん)によって書かれた《子夜》 [zǐ yè]という作品に登場します。
1930年代の作品ですので、成語といっても比較的新しい言葉といえます。
この気の抜けたような語感とは裏腹に、実は結構恐ろしい物語が起源になっていますので、要約して紹介します。
宋の時代にある画家がいました。
いつも心の赴くままに描いてしまうので、何を描いているのかわからなくなってしまいます。
ある時、この画家は虎の頭を描きあげました。すると、ある人が来て、馬の絵を書いて欲しいと依頼しました。
そこで画家は、先ほど描きあげた虎の頭に、馬の体を付け加えました。来た人は、これが馬なのか?虎なのか?と聞いたところ、画家は「馬馬虎虎」だと答えました。
来た人はこんな絵はいらないと言ったので、画家は絵を居間に飾りました。
画家の長男はこの絵を見て、これは虎だといい、次男はこれは馬だといいました。時は流れて、長男は狩りに出かけました。
その時、長男はある人の持ち馬を虎だと思って撃ち殺してしまいました。
この画家は、馬主に賠償金を支払う羽目になりました。また次男が出かけたところ、虎に出くわしました。
その時、馬のように乗ろうとして、虎に咬み殺されてしまいました。画家は非常に悲しんで、絵を焼き払い、自責の念を詩に書き留めました。「馬虎の絵、馬虎の絵、馬でもあり虎でもある。長男は馬を撃ち殺し、次男は虎に咬まれてしまった。こんないい加減(馬虎)な絵は焼き払う、自分から学べることは何もない。」
茅盾 《子夜》より意訳
この物語の内容の良し悪しは別としても、この深刻な教訓を描いて以来、「馬虎」という言葉が広まりました。
冒頭のイラストは、この物語からのものです。
原画はニャラメロさんがフリーで提供されているもので、とても素敵なイラストを提供されています。
いくらフリーで利用規約内といえども、こんなコラージュを作ったのは気が引けています。
あえて本人に謝る勇気もないので、こちらにリンクを貼らせていただきます。
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日本語の「まあまあ」の語源は中国語の「馬馬虎虎」ではない理由
日本語の「まあまあ」と中国語の「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」は、現代では似たような感じで使われることもありますが、日本語の語源ではありません。
「まあまあ」を辞書で調べると
極端に良くも悪くもないさま。
日本国語大辞典
十分ではないが、一応は満足できるさま。
デジタル大辞泉
とあります。
この用法としての「まあまあ」は、日本国語大辞典によると
1898年に小説家の小栗風葉(おぐり ふうよう)が「恋慕ながし」という作品の中で「渡者とは違って堅さうにも見えるから、まあまあと思って辛抱もしてゐたのが」
日本国語大辞典
と記述しています。(発表は1900年5月)
この時点で、先述の中国の1930年代の小説《子夜》よりも昔になり、当時の《子夜》での「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」には、日本語の「まあまあ」の意味はありませんでした。
このことから、日本語の「まあまあ」の語源は中国語の「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」ではない、ということができます。
また、この意味の「まあまあ」についても「「まあ」を重ねた語」(デジタル大辞泉)との説明があります。
「まあ」の意味のひとつに、
完全にそうであるとはいえないが、ほぼそうであると認めつつ、ある状態をさし示す語。ともかく。多く消極的な評価や反発する気持のある場合に用いる。
日本国語大辞典
があります。
この言葉が「まあまあ」につながったという確証はありませんが、この用法は江戸中期にあたる1709年の「軽口頓作」(かるくちとんさく)という雑俳集に、「ごろじゃませ・仲人の目にはまあ美人」という表現が見られます。
この「まあ」や「まあまあ」の語源については、確かなものは見出すことはできませんが、日本語の「まあまあ」は中国語の「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」の語源ではないことは明確になったと思います。
「トラウマ」の語源は古代ギリシア語で虎や馬とは無関係
日本語で「心的外傷 (しんてきがいしょう)」のことを「トラウマ」と呼ぶことがあります。
元々は古代ギリシア語の"τραύμα"で、これがドイツ語の"trauma"にもなった後、英語などにも広まりました。
これらの意味は単に「傷」を指す言葉でしたが、オーストリアの心理学者・精神科医 ジークムント・フロイトの影響によって「精神的な傷」を指す言葉として知られるようになりました。
動物の「虎」や「馬」とは無関係ですので、「馬馬虎虎」とも無関係です。
ちなみに英語では、「精神的な」という意味を持った単語と組み合わせて
psychological trauma
といいます。
中国語では
精神创伤 [jīng shén chuāng shāng]
心理创伤 [xīn lǐ chuāng shāng]
と表現し、「精神的な傷を負う」という意味で日本語と同様になります。
このブログも「馬馬虎虎」にならないよう、これからもしっかり調べながら書いていきます。
今回もお読みくださり、ありがとうございました。
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